ASCASO社のエスプレッソマシンのマニュアル和訳したり、映画の感想文、たまに恋愛相談。

tomatojuicer222's diary

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インセプションの真相2 ネタバレあり後編

本記事は消えてしまった旧ブログで高評価を頂いていたインセプションの考察記事を再構成したもの。ラストシーンについて答えを出してみました。(本記事は後編、ひとつ前の記事で提示した考察材料を使って真相を導いていきます。)

本記事で考察対象としている数々の違和感たちは前記事に列挙しています。


インセプションの真相1 ネタバレあり前編 - tomatojuicer222's diary


1.コブはなんで無事帰ってきた?
これに関しては普通に観てても気づく人は多いみたい。ロバートを助けに行く層にはコブと奥さんが作ったビル街が残っている事から、この層はコブの潜在意識。だからこの層での行動はコブへのインセプションとなって以降の行動に反映される。では女々しいコブ→男気コブの間に、何がいつインセプションされたのか?
奥さんと決別する直前に何があったかというと、奥さんに捕えられてたロバートを救出、代わりに自分は奥さんと夢に残ると宣言する。ぱっと見はいつもどおり奥さんの投影を振り切れないナヨナヨコブさんのシーンなんだけど、複数回観ていると"奥さんを出し抜くために嘘をついた"様な力強さを感じるシーンでもある。目がキラーンって。つまりここは既にインセプション後で性格矯正済み。ではその前は?というと、奥さんの死の真相をアリアドネに聞かせるシーン。自分の奥底にしまってあった過去を懺悔し、罪の意識を解消した。これがインセプションとなり、もう奥さんに邪魔されるいわれはない!と行動できるようになった。
女々しいコブ(奥さんを追い詰めた罪の意識=邪魔されて当然)→懺悔→男気コブ(邪魔する奥さんなんて本物じゃない、投影にすぎない)

2.アリアドネはなんでついてきた?
コブへのインセプションアリアドネへの懺悔だとする。じゃあアリアドネと最下層に行ったのは偶然だったの?雪山の層でさらに下層に進む事を提案したのはアリアドネアリアドネが意図的にコブを深層に進め、トラウマ解消のためにがんばったと考えることに矛盾はない。そーいえば作戦準備の段階から、コブの心の問題をなんとかしなきゃ!というのが(ロバートへのインセプションを目指す他のメンバーとは違って)同行の理由だった。アリアドネは夢の世界を初体験したところで一旦辞退→やっぱりやるわ、という流れでチームになる。その間にマイルズと話し、深層でのインセプションという"治療方法"を教わったのではないだろうか。
コブが心の問題を抱えていることを先生に報告→作戦に同行して問題を解消するよう依頼される→メインの作戦に協力しつつ、裏でコブの心の問題のために働く、という流れ。

3.ところどころ映る子供の意味は?電車の意味は?
子供がでてくるシーンは複数回あって「投影の子供(複数回)」「幸せだった頃の記憶(一回)」「ラストシーンの(現実の?)子供(一回)」である。それぞれ服が違うから区別はつく。そのなかで複数回映る投影の子供には"振り向かず顔を見る事ができない"という特徴がある。指名手配されて逃げる最後の記憶から"子供の顔を見れない(=子供に会えない)"という思いを投影したもの。従ってラストシーンの振り向く子供は"会えない事を意味するネガティブな投影"とは反対に現実の子供である。もしくは"自由に会えるようになった事を象徴する投影"であり、いずれにせよラストはハッピーエンドだと言えそう。
で、実は電車に関しても子供と密接な関係がある。ストーリー上、夢から覚めるための自殺という、かなりトリッキーな使い方で利用された電車だが、あの時現実に戻った理由こそ子供の存在じゃないか。夢の最下層での50年は、劇中に出てくる設定で計算すると現実で十数時間程になる(使用した鎮静剤の精度がわかんないけど、ズレがあっても数時間単位)。夢でたっぷり遊んでおじーちゃんになって、さあさすがに現実の子供が起きる頃だし戻ろうか、ってタイミングとぴったし合致するわけ。子供のために戻ったと明言はされてないけど間違いないだろう。つまり電車のシーンは"現実に帰って子供に会う"というポジティブな帰還を表す。セリフも"どこに続くかわからないが一緒なら怖くない"と非常に前向きである。ちょくちょく現れる電車は"この一仕事を終えれば子供に会える"を表す投影ってこと。もっとも任務の邪魔する暴走列車は"チンタラやってないで早く終わらせて子供に会わなきゃ!"て感じに期待というより焦りが色濃く出てしまってるのかもしれない。

4.アーサーとコブの仲悪すぎ門田町
仕事を奥さん(投影)に毎度毎度邪魔されるわけだから仲悪いのは分からなくない。しかし長く仕事をしてきたパートナーで、奥さんの死を乗り越えられないコブをなんとかしなきゃと思っている。アリアドネの言うように完全に見て見ぬふりをしてるとは考えにくい。だからちょっとしたきっかけで奥さんと虚無に行っていた事などを鋭く指摘できるのである。

5.マイルズは娘を殺した(とされるコブ)を許してる?
コブを恨んでるような描写はないかと注意深く探してみたけど、そんなシーンは一切見当たらない。反対にコブを実の息子の様に心配しているという感じも特にない。確かなのは「孫を心配している」点。前述のアリアドネの項でコブの治療を依頼したのは、孫を思う故ではないか。娘を殺したとされるコブを恨んでない点はひとまず保留(あとでちゃんと解決します)。

6.サイトー
サイトーの非常識な権力ぶりはSFファンタジー映画の中とはいえ相当ぶっ飛んでる。電話一本で犯罪歴をチャラにするほどの権力者なんて夢見るのもいい加減にしろよ?ん?夢?あれこいつの存在自体が誰かの夢なんじゃね?と、ここに一つの仮説が生まれる。
作戦決行直前の空港で"電話一本で~"のくだりがあるからここは既に夢。作戦成功後の飛行機内で電話をかけるところも夢。つまりロバートへのインセプション作戦は全て夢の中で行われたのではないか。こうなると例の洗面所のシーンに説明がつく。

7.ユスフの鎮静剤を試飲した後の不可解な洗面所シーン
劇中で明らかにコマの確認を怠ってるシーンがここ。メインの作戦がコブの夢の中の出来事だとすると、このシーンを境に、メンバーを集めて鎮静剤を試飲するまでが現実、鎮静剤を飲んでからは作戦準備期間、作戦本編が全て一連の夢となる。作戦が終わって空港到着後に夢から覚めるのだろう。

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以上で前述の違和感を一応の軸を保った形で結構説明できた。最後には全て夢だったなんてとんでもない説が出てきたが、では、その夢は誰がどんな目的で見せた夢なのか。

 

上記の1-7を踏まえると"コブ以外のメンバーが協力してコブの問題を治す"ためのプランだと考えれば納得がいく。以下でその裏プランを整理する。


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8.裏プランを時系列で
・アーサーがコブの問題に気づく。このままじゃ仕事にならないため夢の発明者であるマイルズに相談。孫のためを思うマイルズと利害が一致、協力。
・アーサーがサイトーとコンタクトをとる。"ライバル企業を壊す代わりに作戦に協力(無罪放免にできる権力者の役を演じるお仕事)して"と依頼。
・アーサーがコボル社からの依頼としてニセの仕事を持ってくる(映画冒頭新幹線でのエキストラクト)。サイトーとコブを接触させるためのニセのお仕事とゆーこと。サイトーが夢の話やコブの望みにやたら詳しかった事も、アーサー、マイルズ、サイト―の三人が事前に繋がっていたなら説明がつく。
・ヘリでの会話。メンバー集めは慎重にのセリフから、コブが知ってる最強メンバーを集める様仕向ける。
・マイルズがアリアドネをコブに紹介する。この時点でアリアドネはただの学生だが、一旦計画を抜けようとした時にマイルズから説明を受けた。(コブがメンバー集めでマイルズに会いに来たのは想定外だったと考えると納得がいく。会話の中でマイルズはコブの抱える問題の根が深い事に気づき、急遽アリアドネをメンバーに加える流れ。)
・ユスフに会う前のコボル社の追手はサイトーの部下。サイトーが直々に迎えにきたのも安全が保障されていると考えれば納得。
イームズがユスフを紹介(もちろん接触済み)で、ここまでは現実。
・鎮静剤の試用(と見せかけた裏プラン本編スタート)。ここから夢。部屋で寝ていた"夢に生きる人達"の中に、アーサー、アリアドネ、ロバートもまぎれていると考えれば納得。
・洗面所のシーン。コマ確認中に手で払ってとめてしまう。普通に観れば現実に戻ってきて体調最悪って描写に見えるが、まだ夢が続いてるというこの説をサポートする重要シーンでもある。
・裏プラン本番
    浅い夢(表のメイン作戦の準備期間~飛行機まで)でサイトーの強権をアピール。(="航空会社を買う"とか"電話一本で無罪放免"とか)
     ↓    ニセの作戦(表のメイン作戦)実行。(=街~ホテル~雪山の層)
    深い夢 (虚無)意識の深層でトラウマの原因を見つけ解消(=アリアドネに懺悔)
     ↓    複数階層の夢を目覚めつつサイトーのニセ依頼を成功→"無罪放免"という報酬を信じるだけの実績をつくり、夢の話に一貫性を持たせる。
    浅い夢 (飛行機)報酬としてサイトーが無罪にする。"奥さんの死の真相を懺悔、責任から解放される"というインセプションが"(もう無罪放免なのだから)子供に会ってもよい"という方向に育つ。

 

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以上が裏プランのストーリー。となると夢の中で無罪放免になることで、現実に空港のチェックをパスできている事になる。あれ??なんかおかしくない??夢でトラウマ解消したって、現実の警察が許すわけないでしょ。ここからやっと本考察の最重要ポイント。


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9.マイルズは娘を殺した(とされるコブ)を許してる?(さっき保留にした点の続き)
本当にコブが奥さん殺しの罪で警察に追われてるとしたら、娘を殺した犯人(と警察が判断して追われている人物)と親しくしている事になる。いくらコブが教え子で犯人ではないと信用してるとはいえ、どう考えても不自然。
実は警察は自殺と結論を出していて、マイルズも自殺なら仕方ないと思っているのではないか。つまり"警察に追われているというのがコブの妄想"だとすると全てしっくりくる。
奥さんを亡くしたトラウマ、罪の意識から"自分は子供に会う資格がない、警察に追われ入国できない"という妄想に囚われたコブ。それをなんとかするために、アーサーとマイルズはインセプションにより"子供と会っていい"と思わせるプランを考えた。これが裏プランの真相ではないか。
そう思って見返すと、警察に追われているという話はコブの自称以外の根拠が全くない(反対にマイルズやアーサーが、警察やアメリカを避けるコブの話題を華麗にスルーし軽くあしらう会話がたくさんある。また実際に警察に追われる様な描写も一切ない。)。

また一番冒頭シーンで会うサイトー老人が言う"恐ろしい考えに取りつかれた男"という表現も"子供に会っちゃいけない"という妄想を勝手に膨らませ"国際指名手配にまで発展させてしまった事"に当たるのではないか。

 

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以上で考察おしまい。まとめるとコブの"警察に追われているため子供に会えない"という妄想を改善するため、無罪放免になる夢をインセプションする計画だった。準備段階で、問題の根がより深い事に気付いたメンバーは、はじめの計画より深い層で心の問題を根本解決する方針に変更し、そのための要因としてアリアドネをメンバーに加えた。

そう考えるとラストシーンの駒はその後どうなるんだろう?指名手配も心の問題も解決した以上、子供には自由に会えるはず。つまりラストの駒が回り続ける(夢)だろうが、駒がとまる(現実)だろうが目覚めた後のハッピーエンドは約束されている。もしあのシーンが夢だったとしても、起きれば本物の子に会えるんだから。で、あのシーンをグレーにした意図は何か?
一つはあのシーンを解決するために本考察のように見返すきっかけにすること(あのシーンがなければ指名手配が妄想だったなどというひねくれた考察は絶対にたどり着かないだろう)。もひとつ重要なのは、コブが駒を気にしなくなったという点。駒が回り続ける世界でも気づかず夢の子供と生きて行く、だとマトリックス的な後味の悪い結末なんだけど、今回は駒が回ろうが止まろうがまぎれもなくハッピーエンドである。夢か現実かという問題にいつも振り回されていた悩みが解消され、子供と幸せに暮らせる事を意味してるんじゃないかな。