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tomatojuicer222's diary

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感想文 ムーンライト

ラ・ラ・ランドが大好きなんですよ。

で、オスカー間違いなしと言われていたラ・ラ・ランドを退けて作品賞をかっさらって行ったのがこのムーンライト。

あの大好きなラ・ラ・ランドが一体何に負けたのか、見たい見たいと思っていたらいつの間にかAmazonプライムに追加され、そしていつの間にか終了目前になっていたので慌てて観た。(現在は配信終了)

 

あらすじですが麻薬に汚染された貧困街。一言目からいきなりハードすぎるでしょ。普通のエンタメ映画ならここから対立組織との抗争があってバッタバッタと人が死ぬやつーーー。

しかしそうではなくて、街を仕切る売人のボスが、ある日虐待されている子供と知り合い、父親替わりのように世話を焼くようになる。その子供の方が主役の物語。

 

 

内容というかとにかくラ・ラ・ランドと対になる双子みたいな作品という印象。アカデミー賞授賞式のあのアクシデントがなくとも、やっぱりきっとそう見えただろう。

 

なんというか写真には全然詳しくないんだが、Instagramに付属の写真加工アプリで寒色系のフィルターをかけたような、空の青と草木の緑と、そして主人公ら黒人の肌がとても美しく映える。素人目にもばっと目を引く色へのこだわりがとても印象的だった。

太陽の眩しい青空というよりは、雨上がりの晴れ間のような湿度の匂いを感じる青。ずっとそんな調子で、爽やかさと陰鬱さが同居するような世界から目を離せなくなった。

 

なんとかトリエンナーレみたいな企画展で、美術館の小部屋に流れる映像作品のように。エンタメとは別軸に描きたいテーマがあって、それをいかに映像に落とし込むかみたいなところが追求されている。

 

ラ・ラ・ランドが赤や黄色、暖色系のフィルターを通して華やかな業界の下積みを描いているのに対して、こちらは寒色系のフィルターを通した美しい映像を通して、薬物と貧困と差別に塗れた世界をリアルに描く。

 

名作と言われるような良い映画って、たった2時間の中に誰かの人生を追体験できるんですよね。ちょっと上手いエンタメ映画と歴史に残る名作の違いはそこだよなと思っていて。

 

僕らの普段の生活とは絶対に欠片も交わらない、1ミリも共感なんかできなかったはずのダーティーすぎる世界の裏側。

けれども最後には、彼が普通のほんの小さな幸せを手にできますよう、そう願わずには居られなくなってしまう。これが共感で、これが人生を描くって事ですよね。

 

特に何も事件なんて起こらなくて(起こるけど、きっと彼にとっては小さな事件だと思う)、彼らにとっての日常を、盛らずにきちんと描く。それができたからこの賞なんだよなと、納得の受賞でした。