感想文 打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?
ツイッターで見かける低評価の数にビックリして思わず見てきてしまいました。結果(思った通り)超好みの感じだったので良かったです。
よく引き合いに出される「君の名は。」が「不思議な力で説明不要な良い感じ」だとすると、こっちは「不思議な力はあるけどそれはそれとして、現実の思春期ってこんな感じ」です。
「サマーウォーズ」を期待して観に行ったら「おおかみこどもの雨と雪」だったみたな。乗り切れなかった人の気持ちはよくわかります。これを中高生が観てもきっと納得いかないだろうなと。一通り拗らせ終えた大人向け映画じゃないかな。
【時間軸について】
これね、ずっと何かに似てると思ったら数日経って思い出しました。クリストファーノーランの「メメント」と同じなんですよ。
ストーリーを時間軸で切り取ってツギハギにしていく構成で、メメントでは現在から過去に、こちらは現在から未来に進んでいきます。
数十分の短いスパンで同じシーンを繰り返しながら、少しずつ話が移っていきます。三歩進んで二歩下がる、家庭科で習う半返し縫いみたいな構成です。
以前メメントの記事にも書いたんですが、キーワードは「追体験」です。ストーリーをなぞるだけじゃないんですよ。もっと主人公の視点、思考を共有できるような仕組みになっています。メメントでは、記憶喪失という病状をうまく疑似体験できる仕掛けとして、この手法が使われました。
tomatojuicer222.hatenablog.com
で、今回体験するのは主人公の葛藤です。
ヒロインを守りたい/自分は無力だ。こっちの世界にいたい/元の世界に帰らなきゃ。この辺の葛藤と、少しずつ目的がすり変わっていく様が描かれます。
この葛藤なんですけど、気持ちがきちんと説明、描写されてるとかいうレベルじゃないんですよ。説明しづらいんですけど、リアルな僕自身の気持ちとして観てしまう感じ。まさに、追体験です。
【映像的なこととか、ヒロインの魅力とか】
この主人公目線の追体験は、時間軸の編集だけでなく、各シーン別の映像でも徹底して表現されていています。
一巡目では第三者視点でストーリーを展開しておいて、二巡目の世界では主人公視点に切り替わります。 これがまた面白い。
ストーリーとは全く繋がりなく無駄に性的というか、目を逸らしたくても逸らせない、みたいなまさに中学生男子の視線がなかば強引に割り込んできます。逆らえないヒロインの魅力にのめり込んで、そして好きになればなるほど、選択肢が変わっていくんですね。
ヒロインを救いたいけど俺には無理
ヒロインを救うぞ
元の世界に帰るぞ
今日1日だけはここに居てもいいよね
ずっとここに居たい
この変化は少年の成長物語で、そして同時に美女に溺れていく大人の男としての1歩でもあるんですね。いやー、素晴らしい。中学生の爽やか青春のカラを被って、大人のおっさんライクな欲望がちょこっと見え隠れするんですよ。エグいですね。
この話をやりきるためにはヒロインが魅力的じゃないと成り立たないんですよ。そこで、どの年代が観ても夢中になれるであろう魔性のヒロインがつよいです。
広瀬すずの、余った息が漏れる様な声。おそろしや。僕はチョロいので1発で好きになりました。
【で、ラストシーン】
結末がはっきり描かれないんですけど、以下に僕なりの解釈を書きておきますね。映画の伏線どうこうというより、現実の男女関係ってこうだよねという目線からの解釈です。
メンヘラビッチちゃんは、こうして時に男の手を借りて、夢みたいな体験で承認よっきゅーを満たして、現実に帰ると、地に足のついた大人の女性になっていくんだと思います。
そして皮肉なことではありますが。男は反対なんですね。
本編に描かれるとおり、男は夢を追ってる時に成長するんですよ。成長はするんですけど、いつまでも夢の中から出てこれない。女の方がとっくに現実に戻っても、です。
出てくるのは5年後かな?10年後かな?体感ですが男女の精神年齢の差ってそのくらいあるような気がします。
その夢のまま15年くらい戻ってこれなかったのが、なずなのお父さんなんじゃないかな。そうならないうちに、帰ってこれるといいなと思います。