ASCASO社のエスプレッソマシンのマニュアル和訳したり、映画の感想文、たまに恋愛相談。

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ベンジャミンバトン数奇な人生 感想文

夜明け前に、ベッドを抜け出して、朝日を見ながら内緒の話をする。

ララランドの時も書きましたが、誰かの人生を受け取るのはなんと贅沢でしょう。例えるなら、現実の世界で誰かに恋をして、その恋が終わるまで、それと同じくらいの価値が2時間ちょっとの中につまっている気がします。

 

で、この映画もそーゆー系なんですけど、本当に人生だけです。他に何も出てきません。盛り上がりも何もなく、ただ時計が進むように淡々と生きていくのです。

 

いやー長い長い2時間40分です。途中で寝なかったのが不思議です。割と好きな映画ですが全くオススメはできません!というか自分でも二度と見たくないです。いや、本当に好きなんですけどねー。

 

 

冒頭と最後に、逆回転する時計が出てきます。

本編とほとんど繋がりのないこの時計がなんなのか、観終わってもよくわからなかったんですよね。

主人公はまさにこの時計のような、時間を巻き戻すような成長をします。老人として生まれて、若返っていく。かといって、主人公の人生に時計のエピソードが絡んでくる事はありません。

 

トーリーに出てこないから、僕はこう感じましたレベルの話になっちゃうんですけど、主人公だけが若返っていくことで、「人生は一度きり」を強く意識できました。

 

誰かの人生を描く時、そこには前提として「一度きり」があります。何度でもやり直しできる能力がもしあれば、全て自分で経験できてしまいます。他人の人生なんて覗く必要はありません。一度きりだからこそ他人の人生に泣けるんです。

 

ララランドでは、夢追う人たちの渋滞と、いつどんなきっかけで渋滞を降りるかという葛藤で、一度きりを描いていました。それがこの映画では、若返りなんじゃないかなと。

 

主人公は老人ホームで育つので、子供の頃から身近に死があります。それが日常なので、一度きりを頑張ろうとか、一度きりだから後悔のないようにとかいう話にはなりません。ただ淡々と、時計が進むように、どうしようもなく一度きりを目の当たりにしていくのです。

 

ここまで書いていて、やっと少しだけわかってきました。

逆回転する時計は、一度きりに逆らって時間を戻したい人の願いなんですよね。時計職人の、デイジーの、多くの普通の人たちの願いです。願っても、もがいても、そして奇跡が起こって若返りの力を持って生まれた主人公でさえも、最後はやっぱり一度きりの死ぬまでを受け入れるしかないのです。(そして唯一時間に逆らっていたその時計すらも、最後には止まってしまうのです。)

繰り返しになるけれど、一度きりだからこそ、他人の分を引き受けて泣けるんです。あぁツライ。

 

そんな中にも救いというか、幸せな瞬間はたくさんあるんですよね。夜明け前にベッドを抜け出して秘密の話をするとか、雷に打たれるオジさんのクスッとくる話とか、初めての友達、初めての仕事、旅先でのおイタ。良いですよね。めちゃくちゃキレイな映像は流石です。いつかもし2回目を見る時が来たら、4Kで見てみたいかも。いや長いから見たくないんだけど。

 

あとね、セブンの時も書いたけど女優が本当に輝いていて、この女優の、この演技がなければ成り立たないって感じの映画なので、デビッドフィンチャーの女の趣味はすばらしいなって思います。