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【読書感想文】「ノゾキアナ」

 

ノゾキアナというマンガがあまりにもどストライクな面白さだったので読書感想文を書く。

 

 一人暮らしを始めたアパートの壁には、隣室と繋がるのぞき穴が開いていたーわかりやすいエロ設定で始まるこの漫画。あまりにもベタすぎるので、毎回判で押したようなお決まりのエロシーンが展開される、連載誌の箸休めエロ枠だろうと思ってしまいました。なんで僕は立ち読みしようと思ったんでしょうね?きっと箸休めエロが必要な気分だったんでしょうね。

 

ところがこの予想は第一話から大きく裏切られ、ドはまりすることになってしまいました。大きく3つのパートに分けてこの魅力をお伝えしたいと思います。

 
1.「ソリッドシチュエーションエロ」という新ジャンル
2.メンヘらない登場人物
3.名前のつかない人間関係

順に説明していきましょう。

 

1.「ソリッドシチュエーションエロ」という新ジャンル
 ホラー映画の一ジャンルに、ソリッドシチュエーションスリラーというものがあります。「SAW」や「CUBE」の大ヒットで有名になった手法で、自由の効かない状況で展開されるホラーを指します。

例えば鍵のついた部屋に閉じ込められる、といった固定された状況(ソリッドシチュエーション)が大前提なので、物語を展開させるのは派手なアクションや目に見えるイベントではありません。その場を支配する「ゲームのルール」とか「駆け引き」「人間の内面」、そんな映像に映らない部分が物語の鍵になるのです。頭を使ってパズルを解くように楽しむジャンルと言えます。

 

走ってチェーンソー男から逃げるような従来の洋ホラーとも、じめっとした理不尽な恐怖が迫ってくる和ホラーとも違って、ハラハラドキドキの恐怖感はオマケでしかありません。ゲームの参加者としてストーリーや謎解きをしっかり楽しめる、大人のための知的ホラーという感じです。

 

 で、この漫画。部屋の覗き穴は、まさにこのソリッドシチュエーションそのものです。ソリッドシチュエーションエロ。エロ描写はもちろんあるけど、そんなものはおまけに過ぎません。穴をめぐる駆け引きとか人間関係がとにかく濃くて生き生きしているんです。穴から覗くのはエロシーンではなく、人間の本性なんですね。


きっとこの作者は、エロがなくてもすごく面白い人間ドラマを書けるんだと思います。ググってみると少年誌でラブコメを書いてるじゃないですか。買います買います絶対買います。もう一発で大ファンになってしまいました。

 


2.メンヘらない登場人物
 メンヘラとは、精神科や心療内科が担当するような心の問題のことを指すインターネットスラングですが、もっと砕けた解釈として「恋愛や友情などの人間関係をコントロールするために桁違いの行動をとるヤバイ人」くらいの意味でも使われます。彼氏の浮気を疑って深夜に100回電話するとか、携帯を盗み見ちゃうとか、家に押し掛けるとか、自殺をほのめかすとかそういう感じです。

一般的な恋愛漫画では、このカジュアルな意味でのメンヘラが結構出てきます。ストーリーが動くきっかけになるような事件を起こす、いわゆるトラブルメーカーがいないと話が進まないからです。

ところがメンヘラの行動は一般人には理解不能なので、メンヘラ頼みのストーリー展開には無理があるんです。あのシーン、一言声かけてれば丸くおさまったのに!というような不自然なきっかけでしか事件が起こらないんですね。マイルドな言葉でいうと「すれ違い」とか「意地の張り合い」とかなんですかね。あれ全く共感できないんですよ。そしてそれを読んで育ったリアルメンヘラがリアルを席巻していくのです、あぁイヤだ。

 

ところがこの漫画では、先に述べた通り、穴をめぐる駆け引きが話を進めてくれます。現実にあり得ない様なフィクションの部分は全て穴が引き受けます。なので登場人物はみな当たり前に自分の生活をしているだけで、きちんと面白い事件が起きるのです。いい人も嫌な奴もたくさん出てきますが、皆まともな方向に一生懸命で、共感できて、リアリティがあるんです。

 

3.名前のつかない人間関係
 もう一つの特徴として、登場人物たちは彼氏彼女といった関係に(あんまり)固執しません。

ここから先の話は、私個人としては一番気に入ったポイントなのですが、多くの人にとってはピンとこないかもしれません。実際に漫画を読んでみないと何を言っているかわからないかもしれません。

 

彼氏彼女という名ばかりの「役職」よりも、付き合ってすらいない名前のない繋がりのほうが、上位の関係であることを本能的に察するのです。これって結構すごいことです。


現実の恋愛において、多くの人は正妻とか本命の彼氏彼女でいる事を良しとします。浮気する人であっても、本命とその他大勢に分けている場合がほとんどです。本命彼氏より優先される○○君、ってほとんど聞いたことがありません。本命彼氏が一人いれば、そいつが大事さランキングの一位なのです。浮気を許さないひとはなおさらです。

 

そして自分が正妻のポジションにいさえすれば「浮気ではない、体の関係はないけど特別に大事な相手」についてはほとんど気にも留めないのです。

これは正妻の余裕なんて話ではありません。現代日本の社会において、恋人以外の大事な相手という概念がそもそもかなり薄いみたいです。僕はそれが不思議で仕方がないのですが、しかし多くの人にとってはそうなのです。体の関係なんておまけみたいなもんで、そっちの方がよっぽど重要だと思うんですけどね。

 

作中では家族でも恋人でも友情でもない、名前の付けられない不思議な絆が描かれます。秘密の共有とか、自分の世界を持ってるとか、カカシとか、それはもういろんな言葉で丁寧に丁寧に表現されます。この関係が涙が出るほど素敵なんですよ。誰かが信頼して見守ってくれるっていうのは、とても幸せなことですね。それが彼女でも彼女じゃないけどなんか特別な関係でも。

 

で、まわりはちゃんとその関係に嫉妬するんですよ。自分が正妻だからといってスルーしないんですね。素晴らしい。そんなところが普通の恋愛漫画とはちょっと変わってて、でも実は愛ってそういうものだよねと納得できるんです。

 

まとめ
 たった2部屋分の小さな世界で、奇妙だけど心地良い繋がりにひたれるお話です。恋とは、セックスとは、愛とは何か、少しだけ見えてくる様な気がします。大事な相手ひとりひとりを、こんな風に特別なつながりにできたらいいなと思います。現実でやったらまず間違いなく浮気者扱いされてボッコボコにされそうなので、あくまでもコッソリですけど。そんな大人な紳士のための漫画です、もちろん女性にもオススメです。